おっさんのマジ

俺は転職する。2度目だ。自分の意思でするのは初めてだけども。

とりあえず今の会社を辞めるにあたって、就業規則を見ておこうと思った。見たのは入社する時の一回。あれは総務に回収されていったはずだ。とりあえず総務のおばちゃんに聞く。管理職の人が持ってるよー、とのこと。嘘つけ、新入社員全員に見せられたあの青いファイルはどこ行ったんや。会社に秘密にされとるな。でもおばちゃんは悪ない。巨乳やから。

本来就業規則というやつは、いつでも目に見える、わかりやすい場所に置かれてなければならないという。あ、今日のうんちくはほぼネットで仕入れたブツなので、間違ってたら鼻で笑ってほしい。課長と部長のデスク周辺、棚などを、夜勤の時にこっそりキョロキョロしてみた。ない。目に見えるとこにないやんけ。どないなっとんじゃワレ。

しょうがないので、もうダイレクトアタックしかない。金曜日、タイムカード切って帰るかーって雰囲気の頃、「就業規則って持ってますか?」と部長に聞いてみた。

「…は?」

「いや、就業規則です」

「…なんて?」

「しゅうぎょう、きそく、です」

あ、ああ、就業規則なーと言いつつ1番下の引き出しの奥から、マッチ一本で燃え尽きそうな紙のファイルがぬっと出てきた。そこかよ。隠す気しかねえ。まあ、と受け取ろうと手を伸ばすも、部長はパラパラとページをめくって、「どの項が見たい?」と聞く。え、くれないの?「あー・・・そうですねえ・・・休暇、について…の情報が知りたくて…」と、もごもごごまかしたが、もう辞めたいってバレてるよな?と思い、続けて「退職についてのページ見たいんです」と言った。言ってしまった。

部長のページをめくる手が一瞬、固まった。「なんで?」と部長は言う。今思えばここでこの言葉はナイよな。

僕は、「いや、辞めよう思ってます」言ってしまった。とっくにバレてるけど。

「いや、俺はなあ、フクザワくんかて今、チームリーダーやろ?せっかくこれからって時に・・・」と、話が逸れて長くなりそうな気がしたので、「いや、とりあえず考えてるだけなんで、就業規則見せてください」と、手を伸ばす。しかしまたヤツがページをめくりだす。どうやら意地でも渡す気はないらしい。見たか、これが我が社の方針であり、企業体質である。

「あ、退職の14日前までに言えばいいんですね」と僕。しかし間髪入れずヤツは、「いや、こんな通りにやられたら、もうたまらんで。こんなん絶対あかん」と部長。なりふりかまってねえなコイツ。こんなクソほどめんどくさい不毛なやり取りを繰り広げ、内容を記録しようと持ってきたノートには「14日前」の4文字だけが刻まれた。トホホ。まじその就業規則見せてほしい。あ、労働局で見れるんか。社員であるうちに見てみようと思う。

しかしながら、僕がこの会社に入った経緯というのは、社長の友達(前の会社の上司)から推薦をもらって、まあぶっちゃけ縁故採用なのだ。この社長のの友達というのは僕の恩人で、僕が会社を辞めてしまうというのは、1番この人に申し訳が立たない。「俺の顔を潰す気か!」なんて怒鳴られたらどうしよう。社長の方がそんなこと言いそうだな。

そんなこんなで、日曜日にスーツ着て、恩人の職場を訪れた。辞めようと思ってますと、話をした。僕ばっかり喋っていた。うんうん頷きながら聞いてくださっていた。

「5年、か」

「はい、5年になります」

「そうか」

「いえ・・・」

「いや、おつかれさん」

最後はそんな感じだった。5年前、この人に救ってもらったのだ。家も仕事も金も恋人も、そんなものでは取っ替えの効かない最も大切だったものを失ったあの頃、家と仕事を与えてくれたのがこの人だった。申し訳ないのと、やったぜ怒鳴られなかったぜってのと、フィフティフィフティーでファイナルアンサーだった。

前後するが、部長は僕が入社した経緯を知ってるので、まずは専務と話すべきやと言われた。そりゃまあ、確かに。現場の運用がどうのよりも、メンツだもんな。どうしよ、やっぱり「俺の顔を潰す気か!」言われそう。気が重い。でも、まあ、いっか。部長との会話も録音したことだし。専務もそんな感じで。

現在2社受けている。誰でも知ってるような大手だ。面接3回だって。バカでねーの。その前に大学名で落とされたらかなわんけど。はあ。