カレーの匂い

カレー弁当や!いうて、昨晩残ったカレーを直に弁当箱に詰めて持っていくと、普通に洗っても匂い取れませんマジで。特にタッパー系のプラスチックのやつ。色も落ちにくい。ラップで容器をガードした上で詰めるのが吉。これ豆です。

 

ノスタルジーを感じたいと思うのは、ちっとも不自然なことではない。ただあんまり意味はないがね。見るよりも触るよりも、もっとも強く感じられるのは匂いだ。小学生の頃、通学路に漂っていた、甘ったるいようなカビのような異臭。あれと同じ匂いがする場所をこの間見つけた。会社の危険物倉庫だ。普段厳重に鍵をかけてあり、どんなヤバいブツが入ってんのか見当もつかなかったが、社員でかつ、何かしら目的があれば入ることが出来る。その機会を偶然にも賜り、かの倉庫の鍵を手に、足を踏み入れたのだ。

扉を開けた瞬間、僕の脳みそは小学3年生に戻った。あの匂いだ。目的のブツを取りに来たことも、運搬用員で連れてきた後輩の存在も忘れ、僕は神奈川県相模原市のとある十字路に、ランドセルを背負って立っていた。車がひた走る16号線のその上、歩道橋の真ん中から見下ろしていた。この階段を下りてすぐの角、いつもシャッターの降りている謎の店。一帯を取り巻く謎の匂い。何の店かは知らない。興味もなかった。僕の興味あったのはブックオフか、駄菓子屋か、ジャスコのおもちゃ売り場だけだったから。

危険物倉庫の扉を半開きに固まっている僕を、後輩が怪訝な目で見ていた。しまった、ここは大阪のようで大阪でない、山と畑に囲まれたど田舎だ。ランドセルなど背負っていない。作業着に身を包んだアラサーの男だ。自我を取り戻し、目的のブツである「白塩酸」を後輩に持たせ、倉庫を後にした。

「なあ、あそこの匂いさ、俺の小学生の時の通学路の匂いすんだよ」

「はあ」

何言ってんすかと言いたげな感嘆詞を発し、興味のかけらもなく、彼は工場への歩みを進めた。

なんであの通学路は、あんな危険物倉庫の匂いがしてたんだろう。中で怪しげな実験や研究でもしてたのだろうか。もしかして相当に面白い発見なのではないかと、現代社会の師であるグーグル先生に聞いてみることにした。とりあえずあの付近の地図を拡大してみよう。

『〇〇仏壇仏具店』

仏壇仏具店?はあ・・・そういえば何か金ピカのキラついたデカいものがあったような気もする。しかしなぜ仏具店に甘ったるいカビのような匂い・・・?

「なあ」

「はい」

両手に20kgずつのポリタンクを抱えた彼が、スマホいじってないで片方くらい待てよと言わんばかりの声色で返事をした。

「仏壇仏具ってさ、あんな匂いすんのかな?」

「はあ、するんやないんですか?カビっぽい辛気臭そうな感じ」

「せやなあ」

会話は終わった。別に面白くも何もなかった。僕はまだしも、両手合わせて40kgの重量物を持たされた挙句、ノスタルジーに浮かれた上司のしょうもない昔話を聞かされた彼の不憫さを思った。呪われてもおかしくないなと思い、片方のポリタンクを持ってあげると言うと、もういっすよと工場の中へ入っていってしまった。5mだけでもちょっとは負担の軽減になるじゃないか。意地っ張りなやつめ。

その呪いのせいか、今週はずっと寝付きが悪い。眠い。寝ぼけた頭で、別段食欲もないまま弁当を貪り、加熱式たばこの点滅を待っている。この話に続きがあるとすれば、彼の呪いの手段だとか、仏壇仏具の金メッキの精製にとある薬品が必要だったとか、寝ぼけて加熱式たばこに火をつけそうになったとかその類だろう。なんだかお腹も痛くなってきた。今日はこんなところです。

カレーの匂いもやっぱ、懐かしいとかそんな感じするよね。