名前をつけてやれ

今日は風俗の話をします。

初めて風俗を体験したのは23歳。社会人1年目、初任給は手取り16万円。そこそこ昇給もした今となっては「ほーん」くらいの金額だが、この間まで日銭貧乏学生野郎だった当時の自分にとっては、何に使っていいのかも想像の付かない金額でありました。母の日が近かったので、とりあえずロフトでタンブラーセット的なギフトを母親に買って郵送し、さて、どうしようと、今なお10万の桁が印字された口座残高を見つめながら思い立った。

「そうだ、風俗行こう!」

先刻までの家族愛などどこへやら、5千円いくらの水筒で満たされた親愛の心は、性愛の欲望へと変貌。5枚の諭吉をATMから召喚、タイトな財布にねじ込んで、天王寺から谷町線へと乗り込んだのだった。

日本橋オタロードケバブの屋台しか無いと思っていたこの土地の異様な空気の正体は、その奥地にある風俗街から滲み出ていたものだと、この時初めて知る。素人目線ではあったが、大阪の風俗情報をネット上を吟味した結果、ここ日本橋にあるホテヘルにヒットした。股間が。価格は60分1万円。ポッキリ。諭吉5人もいらんかったんや。

とりあえず、一旦店に電話してみる。いきなりお店に訪問して、怖い人に囲まれぼったくられて終☆了☆なんて真っ平御免だ。まあ今考えてみれば、一回電話したところで何のリスク回避にもなっていないのだが。

「はい、にゃんだふるぼ○きです」

と、ほんと冗談みたいな店の名前で応答があった。いやいや、ちゃんとネットで見た店の名前と同じだ。おかしいことはない。

とりあえず初めてだということを話すと、ウチに任せてください、絶対満足していただきますと、自信満々な態度で対応されたので、よっしゃ任したろ!と指名なし、フリーの60分1万円で決着が付き、店に向かうことになった。

店の住所近くに着いたが、それらしき店は見当たらない。築40年は経ってそうなボロ雑居ビルがぽつんと立っていた。え、こんなとこにあんの?どこぞのキズモンの事務所やないの?やっぱりこれぼられてるんじゃ…?と不安が立ち込めてくる。とりあえずタバコを一服。意を決してビルの302号室のベルをピンポンと鳴らした。

「どうぞー!」と景気の良い声が聞こえ、ドアを開ける。小さな事務所のような受付カウンターに、ワイシャツ黒スラックスの兄さんが出迎えてくれた。電話した者です〜と緊張を含ませて話すと、もうお任せください!と再び自信満々に彼は答え、料金の1万円を支払うと、横の待合室へ通された。10分ほどお待ちくださいね〜!と彼は去って行き、俺はそこの本棚にあった闇金ウ○ジマくんを読んで時間を潰すことにした。

ちょうど10分くらいだろう、お待たせいたしました!と受付の彼が現れた。読みかけの漫画を棚に戻し、そこで今日1番の緊張が俺を襲う。どんなもんなんや、風俗がどないなもんじゃいと心と股間を奮い立たせ、待合室を出た。

え、ちょっと待って、めちゃくちゃ可愛いやんなにこれ?内巻き茶髪ボブ、タイトなニットの上からわかる二つのふくらみ、わたくしのどタイプの女子が立っている。マジ?うまく行き過ぎちゃうか?こんなことある????緊張感はどっかへ飛んで、熱い血潮が全身を駆け巡った。風俗、さいこう・・・お兄さん、さいこう・・・

そこから先はあまり覚えていない。女の子とお手て繋いでホテルへ。あっという間の60分。サービス内容は、うーん、とりあえず本番はなかった。それ以外の行為を一通りって感じ。愛あるそれはなかったけど、悪く言えば欲望のはけ口にはなった気がする。

どうもヘルスは交渉次第で本番も、みたいな駆け引きがあるらしい。店には禁じられているが、その方が嬢は楽なんだとか。ま、一見さんの自分には高すぎるハードルでござる。

これが初めての風俗体験になった訳ですが、帰り道にフフッとにやけ出して、周りに誰もいないのを確認してははははっ!と笑うくらいには楽しかった。とてもよかった。が、この「ホテヘル」という業態が、風俗遊びのほんのさわり、序章でしかなかったことをもう何年かして知ることになる。それはまた、別のお話で。